東京高等裁判所 昭和26年(う)3856号 判決 1952年4月17日
控訴人 被告人 三井義次
弁護人 山下卯吉
検察官 中条義英関与
主文
原判決を破棄する。
本件を横浜地方裁判所に差戻す。
理由
弁護人山下卯吉の控訴趣意は本判決末尾添附の控訴趣意書記載のとおりであるから、これについて判断する。
第一点
原審訴訟手続の過程をみるに、起訴の犯罪事実は、被告人は土屋喜作外数名と共謀の上昭和二四年八月二九日(初め起訴状記載には八月二八日とあるを昭和二十五年一二月二六日原審公判期日において弁護人も同意の下に訴因変更)午前三時頃横浜市南区中村町堀割に繋留中の東邦物産株式会社所有の東神丸内において同会社責任者斎藤重夫保管の被服類三梱包を窃取したものであるというのに、原判決認定の事実は、被告人は同日午前六時頃同市同区高松町四丁目二九番地土屋喜作方においてメリヤスシヤツ約四〇枚を同人が他から窃取して来たものなる情を知りながら代金一万二千円で買受け以て賍物を故買したものなりというにある。而して右双方の基本的事実の同否につき按ずるに、まず、原審公判における審理の経過によれば被告人に対する右窃盗犯としての起訴の趣意は、被告人は窃盗の実行行為には加わらなかつたが窃盗の共謀はしているとみて実行行為をした他の共犯者と共に共同正犯として起訴されたものであり、次に、原判示の賍物故買としての認定を同判決引用の証拠に照合するに、被告人は右窃盗の共同正犯としての責を負うべき程度の行為はないが起訴の日時場所における同物品に対する窃盗行為は予め諒知しており、ただその窃盗共犯者が多数に上つたため窃取による人別利得の少くなるべきをおもい窃取行為そのものには参加せず同物件による利得の方法を転化し、該物件窃取の後間もなくその犯人の一名たる土屋喜作方において同賍物の一部たるシヤツ類約四〇枚を窃取にかかる賍物たる情を知りながら買い求めたというのであるから、結局昭和二四年八月二九日頃前記堀割に在る東神丸を関係場所として右シヤツが不法に領得されたことに被告人が関与したことは起訴及び原判示の両事実に一貫する点であり、従つて両事実は密接な関係を有し、いわゆる基本的事実において同一性を保持してかわるところがない。然し、苟くも判決の認定事実が公訴の事実と幾分でも犯罪の体型を異にする結果被告人に実質的な不利益を生ずる虞があるときは、たとい両事実がその基本的同一性を保有する場合でも猶事実審としては須らく検察官の請求を待つか又は進んで検察官に命ずることにより訴因変更の手続を為し以て被告人にこれに対する防禦の機会を与えてその利益保持に留意するを相当とするものなるところ、原審公判手続においては此の措置に出でず、前記の如き窃盗の起訴事実につき前叙の犯行の日を変更した外は特に訴因変更の手続を践むことなくして原判決が窃盗罪より法定刑の重い賍物故買の事実を認定処断したことは刑事訴訟法第三一二条の趣旨に違反して被告人の防禦権の行使を不当に制限した違法があり、この違法は判決に影響を及ぼす筋合であること明かであり、原判決はこの点において破棄を免れない。論旨は理由がある。
そこでその余の論旨に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三九七条第三七九条により原判決を破棄し同法第四〇〇条本文により本件を原審たる横浜地方裁判所に差戻すことにして、主文のとおり判決する。
(裁判長判事 佐伯顕二 判事 武田軍治 判事 真野英一)
控訴趣意
第一原判決は不当に訴因の変更を許した違法がある。
訴因の変更は公訴事実の同一性を害しない限度において許されるのであるが公訴事実の同一性を害しない限度と言うのは基本的事実関係が同一と認められる場合を言うものと解する。窃盗罪を賍物故買罪に訴因を変更するのも公訴事実の同一性を害しない限度即ち枝葉の点まで同一であることの必要はないが犯罪の日時場所等重要な事実関係が同一である場合においてのみ許さるべきものと信ずる。
然るに原審は被告人が土屋喜作外数名と共謀の上昭和二十四年八月二十八日午前三時頃横浜市南区中村町堀割に繋留中の東邦物産株式会社所有の東神丸内に於て右会社責任者斎藤重夫保管に係る被服類の梱包三梱包(価格約五万七千二百円相当)を窃取したものであるとの窃盗の事実を日時場所及び物品の数量を甚だしく異にする、原判決摘示の如き昭和二十四年八月二十九日頃の午前六時頃横浜市南区高根町四丁目二十九番地土屋喜作方に於てメリヤスシヤツ四十枚を約一万二千円にて買受け故買したとの賍物故買罪に訴因変更を許している。右の如く犯罪の日時場所及び数量を甚だしく異にする場合は基本的事実関係が同一であると言い得ないものと思うから斯る訴因の変更を許さるべきでなく違法であると信ず。昭和二十五年(れ)第一二九九号昭和二十六年五月一日第二小法廷判決判例集五巻六号一〇九一頁とは趣を異にするものと思う。
(その他の控訴趣意は省略する。)